父から譲り受けたナイフ
メンテナンスの依頼
「父親から譲り受けたナイフをメンテナンスしてほしい」と依頼がありました。ナイフについているマークから相田義人のものであることを知り、連絡をくれたのです。ナイフは4”セミスキナーで、イッカクのハンドルがついている特別な仕様のものでした。
ナイフやシースの具合からもかなり昔のものであることがうかがい知れます。
ナイフの前オーナー
お客様の苗字とこのナイフを見た瞬間、義人は記憶が蘇りました。
その昔、相田義人がチャールズ・リンゼイという写真家とともに北極にほど近いカナダ北部へ旅をしていました。曰く、このナイフは旅の途中でイヌイットから買い求めたイッカクの角で作ったものでした。
そして、このナイフの前オーナー(依頼者の父親)は、そのチャールズ・リンゼイを相田義人に紹介をして、ふたりの関係を作ってくれた恩人だったのです。
(うちの事務所に飾ってあるリンゼイ氏の作品。ホッキョクグマに肉薄してます!)
父の知らない一面
義人は出来る限りきれいにメンテナンスして、当時の思い出話をつづった手紙とともに、今のこのナイフのオーナーである息子さんにお返ししました。その手紙の内容には息子さんの知らなかったお父さんの一面がつづってあったそうで、とても喜んでもらえました。
依頼者の方は一本のカスタムナイフがきっかけで、父の知らなかった一面を知ることになったわけです。
カスタムナイフはどんなものであれ、作者がその時を一生懸命生きて、一生懸命作ったものです。そして、それを手にする人にも様々な思いや、その人なりの歴史があるものです。カスタムナイフひとつひとつには、人々の思いやストーリーが詰まっているのです。だからこそカスタムナイフは言い知れぬ魅力があるのかもしれません。